山田有浩 / Arihiro Yamada

Information of Arihiro Yamada (dance, butoh / ダンス, 舞踏)

朝顔観察記テクスト(4月)

朝顔観察】

12日目(04/09) 晴れ。少し肌寒い強風の日が続くが温かい陽光が降り注いでいる 12個植えた種のうち2つが芽を出す


13日目(04/10) 晴れ。温かくて土の表面はすぐ乾いてしまう 土はふかふか 午前から双葉が見えていたが(1枚目)、午後には完全に顔を出している(2枚目) もう一方の芽も土を押し上げている いや3つ目の白い芽も出ている


14日目 晴れ。温かし。強風で器が飛んで行きそう。
また一つ、新たな芽が出てくる。赤紫の芽と、白い芽と。最初の子はひ弱そうに宙に双葉を広げる。


15日目 晴れ。風は落ち着き穏やかな陽気。どの子もまだ葉緑素が少なく白んでいるが、開かれた双葉はすでに光化学反応で色素にムラが出てきている。光によって色-強度は育つ。環構造、膜の重なる嚢、回転楕円体…、微小な構造に触れるには眼の触角的解像度を上げ主客溶解した己の身体に貞く。
(承前)痩せ細って白んだ身体が何故こんなにもエロティックなのか。これは未成熟さと結びつく少年愛や、存在の気配が薄らいだ衰弱体の問題でもある。どちらの身体も「存在」の彼岸に近い薄暗い静かな領域に触れている。故に存在としてのテロリズムともなりうる。


朝顔観察 16日目 14.6℃ 晴れ。少しひんやりとした風の強い朝、地面を押し上げて、土や皮をかむったままムクと直立し、垂れた頭をゆっくりあげてゆく、双葉の多くはまだクシュクシュしている、現在、5/12が目覚めている。

17日目 17.6℃ 曇り
円型-虚体の裡に熱量は満ち〻て黄体期の乳房の張りの如き痛みを伴わんばかりの力のほとばしりは自らを突き破り赤白い細柱がスッと直立してくるこれは侵犯で 生まれたての皺々な羽根が天辺に水平に伸びてゆく 足元には既に影が差し 底は分解と結びの地の広がり


18日目 20.8℃ 曇り
傷は残れど被っていた殻を弾き開いてゆく 皺々の渦は胎内未生期の物質的熱量の流れの残響であり予兆で 顕現した瞬間には自らを書き換えている 明滅を刻々と深める色素は強度で 赤の粒はエッジを護り緑の粒は面に広がっている


19日目 15.4℃ 晴れ
日向は温かく時々風強し きれいに開いた一茎と少しずつ皺を伸ばしている五茎 種の向きもあるのだろう 後者は土がまだついている 繊毛が目立ってくる

20日目 14.6℃ 曇り
降り出しそうな雲がつづき気圧変動の風強く肌寒し ひたすら水を循環させ僅かずつ姿を整えている 土はふっくら少し温かし
今のところ芽生えているのは6/12 昨年も数ヶ月遅れで芽を出す子がいたのでまだ分からじ


21日目 16.3℃ 曇り/晴れ
双葉の裂け目に芽生えの気配あり あたかも聖山の樹の根の裂け目に置かれた小さな朱の鳥居のようにエネルギーが集注して軸が立ち上がる 構えた下半身は地中で見えねども満ちて精力を突き上げてくる 察するにこの小さな器の底へも達しはじめているだろう


22日 16.5℃ 晴れ
午前より日差し強く温かい 時折流れる雲に隠されて そよぐ風の涼しさに気づく 肌を撫でてゆく 揺れるというより小刻みに振動する
(承前)ここで言う「聖山」とは「鞍馬山」のことだった 山の森林のあいだを駆け巡りながら幾つもの割れ目と小さな鳥居を眼にしていた 持続的に上下する体に上昇する体温 ほとばしる血流 汗ばむ肌と涼やかな風
女性の陰部より胎児の頭部、と言うよりも男性器がにょきにょきと生えてくる両性具有感を覚えている とはいえ染色体でもXX ありきでXYが生まれるのであって このイメージの交錯は何も飛躍したものではない

23日 23:39 17℃ 晴れ
表面に反射する光でなく色そのものが光であり波長で温度で響きであり とは言え鮮やかさこそ強度だとつい求めてしまうのはあまりに短略的だと自らを戒める

24日目 15:16 25.9℃ 晴れ
日中ひどく暑し 茎から葉脈へとつづくワインレッドはやがて絢爛に開く色彩の予兆かもしれぬ 開花前の樹皮は沸々と色を秘めている


25日目 22:17 20.9℃ 晴れ
真夏の陽射し強く葉緑素は増して青々とす 双葉に生きものが二匹 長い翅を縦にたたむ子に赤グモ 呼吸しているなぁ 葉が器をはみ出てくる子もあり

26日目 15:05 18.7℃ 曇り
朝から空気の湿りが強く雨の土の匂いが立ち込めている 葉脈の色は落ち着いてきた 割れ目の緑は着々と大きくなっており新たな葉のようにも見える


27日目 14:54 20.8℃ 曇り/雨
しだいに温暖前線が風と雨を連れてきて天候不安定 新芽にあぶらむし 根元には小さめのだんごむしが何処からか 新芽はどれも葉のていを現してきている

28日目 12:12 18.3℃ 雨
朝より大量の水が降っている そちこちより音が立ち しづかに濡れながらきらきら発色して輝いている

29日目 11:21 23.1℃ 晴れ
一本を除き地面に植え替える 器より解放され地中も地上も伸び伸びできるだろう 陽光は移動して日向と日陰の土の温度変化は大きい 心地よい風が吹く クモが巣を作ろうと寄ってきて 近くに綿毛も飛んでくる


(三日間お休み)

33日目 12:33 25.8℃ 晴れ
時々風が唸りをあげる 四日ぶりの再会 新たに二本芽が出ており推測するに一本は三日前 一本は昨日くらいか 地面に移った者たちの方が育ちがよいが双葉の個性的な皺は残っている 小さくとも本葉が二葉出ている子もあり