山田有浩 / Arihiro Yamada

Information of Arihiro Yamada (dance, butoh / ダンス, 舞踏)

朝顔観察記テクスト(7月)

96日目(日付訂正) 8:55 30℃ 快晴
激しい暑さに快い風 螺旋状に渦巻いて増殖し 続々と新芽が生まれ出る蔓に ケルトの黄金の装飾が映る 力=流れの渦が複雑に交錯し それ自体を更なる動力源とする 闇(影/裏/虚/あちら側)がちろちろ見え隠れする 一度土より切断された子は旋回力が弱まり地面付近より萎れはじめる
【今日の一曲】気の遠くなるような大地との深い交渉が身体に入ってくる 跳躍しながらも都度ずんずん根が深く降りてゆく姿の幻 ただ瞑想的になるだけならこの甲高い声はいらない 扉を開くための装置 反復しながらも どんどん景色が転じてゆく 畏れに近いものに触れてゆく感触 -Hukwe Zawose「Nhongolo」
(追伸)本日見た アフリカ関連のドキュメント オープニングで何故か鯨のソングが薄っすら流れた瞬間があったのだが それがこの「鯨のソングの名盤」からのものであることはすぐ分かった (幻は実体でないにも関わらず実在として働きかけてくるがゆえに実体以上に真に実在しているといえるようなところがある) -「Songs Of The Humpback Whale」


97日目 14:14 32℃ 晴れ
朝から地面はカラカラ 一度根を切離されて葉を黄色く萎らせ落としながらも二三の新芽を産出している 萎れた蔓は切断 まだ重体中 蔓が柵を超えはじめたので広範囲のネットを張り 調整のため元気な蔓も一本摘出 獣の尾のように生々しく匂い立ちそうな毛と芯 新葉は王冠のよう
【今日の一曲】かつて社交ダンスをやっていた寝たきりのじっちゃんがひとりタンゴを聞いていた 恍惚に近い表情で じゃませぬようにタオルケットをとり静かなリズムで肌に触れる "フジヤマ・タンゴ"もいいが早川真平(オルケスタ・ティピカ・東京)の「スキヤキ」は別格の美しさ -Orquesta Típica TokioSukiyaki


98日目 23:25 27℃ 曇り
吹きすさぶ風 絶えず激しく揺さぶられ矛先は安定せず 大きい本葉になるほど破れんばかりに持ってかれるも 軸は強く保たれブレることなし 人為的に切断した蔓は未だ足踏み状態 重体の身の先端に現れる新芽はエナジーを集注させ僅かにも推進している
【今日の一曲】時として人生は思うようにいかない それでも何ら悲観すべきこともない ただたんたんとその時々の最善を尽くすのみ ごまかすことなく真摯に なるべくしてなるのであって そういった局面からあるべき姿を汲み取ってゆく きみとぼくと死ぬまでエモくありたい -銀杏BOYZ「骨」

99日目 9:12 28℃ 曇り
びゅうびゅう風吹きつづけ 雨ぱらつく 朝顔の葉としての形状を逸脱しようとするものちらほら 楕円形のもの 切れ目なき逆円錐のもの 左右折り畳んだもの 奇形は夢を見る 未踏の可能性に開かれて 多くの小虫が雨宿る 被断体は絡みつく力はまだ弱いが潜在する律動が息衝く
【今日の一曲】雨音とともにバッハを練習する音が静かに聞こえていた ジョン・ルイス室内楽的に抑制された即興へのアプローチ 絡み合う複数の声部 奇をてらった戯れではなく緻密な実践的考察の末に選び抜かれた もうひとつのジャズの可能性 -John Lewis「J. S. Bach, preludes & fugues」

100日目 7:26 25℃ 雨
水滴らせ ざわざわ振動している 注連縄のように互いをよすがに二重螺旋を描きはじめると強度を増しながらも流れを統制しきれずあらぬ方位に猛進し やがて身を放り投げて再び分かたれる カラカラの日照りの後の雨にエナジーは沸々と裡に満ちて外部を刻々築いてゆく
【今日の一曲】多国籍スナックから聞こえてくる 万人の最大公約数としてのザ・ビートルズ 救いようのなさがどうしようもなく愛おしい こぶしが効いているのがナイス -日本春歌考「Can't Buy Me Love (Beatles Cover)」(2013)


101日目 17:47 27℃ 曇り
雨後の日差しの熱を蓄え地下は激しい混合 合成の場 葉は二日で二倍にも拡張 被断体はいまやもっとも強い潜勢力で芽吹きしなやかに上昇 それを知ってかアカダニやバッタの子が集中 陽光の方位へ首を180度クイっとしている 花の赤と緑の白を薄く匂わす蔓が絡み合う
【今日の一曲】常軌を逸脱して制度を破壊する歓喜の歌 フリーが闘争へと向かった時代に阿鼻叫喚を突き抜けて引き裂かれんばかりの歓喜を鳴らしたアイラー -Albert Ayler「Ghosts」(1964)

102日目 8:16 28℃ 晴れ
風はいまだ移ろいやすく 一昨日の雨で土もまだ湿り気あり 地形が少し変化する 蝉の抜け殻があった 旅と旅とが出会う 内的な旅は姿や仕草にも宿り環境を書き換え また書き換えられてゆく
【今日の一曲】幼い頃より やがて無機物へ還りゆくことが楽しみで仕方なくとはいえ有機生命体や非物質的霊性との境界も曖昧であることは今や確信でしかないのだが やはり沈黙するものらと戯れ綾を織って(/建築して)ゆく/ゆこうとするのは大いなる歓びの一つと云って違いない - Oval/ Wohnton「Hallodraußen」(1993)


103日目 8:54 26℃ 雨
突然の滝のような大粒の雨 空が鳴る 南方に若干の青空 葉面を天に大きく開き 淡い光と大量の水を受け揺れながら濡れて輝く 葉の裏で蟻や蚊たちが機能停止したように雨宿り 地面の土が飛び散って辺りを汚す 平常の建築的な機能は抑制し 受身の体制で可能な資源に照準を合わせる
【今日の一曲】スーッと皮膜を抜けてゆく隙間があって 風の流れる場所に出た 音はなかった 動けば波紋が広がってゆき それは再び複雑化して此処に還ってくる 深度が増してゆく 光の水位が上がり沈みゆく 異形としてのシンメトリーが視えてくる -Dai FUJIKURA「Prism Spectra for viola and electronics」(2014)

104日目 14:37 33℃ 快晴
根は無尽蔵に増殖を続け 先の大雨に洗われた地面に無数のネットワークの無秩序な断片を剥き出してみせる 一時は弱ったものも猛烈な勢いで節を連ね上昇する 僅かに異なる形状の芽が複数… まるで別の穏やかで小さな響きを摑まえる あなたは蕾ですかと咄嗟に呟いた
【今日の一曲】トリステザは終わらないが フェリシダージは終わってしまう この抒情の世界を手放すことなく 同時に一枚剥がせばそこには何の違いもないのだという世界を生きている 真実はここでは唯一つ それでも少年が歌うたび丘の向こうより太陽が昇る ということである -Caetano Veloso「A Felicidade」

いつしか親しみのあった人が亡くなると植物を新たに植えたり育てたりするようになった。別にその人の生まれ変わりかのように投影する訳でもないのだけれど。日々淡々と水をやるような無益な習慣がひとつ増えて、そこから日常に余白/呼吸場がふっと拡がる。(7/10)

105日目 23:43 29℃ 晴れ/曇り
天涯の地を求め 網の際へと至り出会ってしまった三つの流れはすぐさま絡み合い 図太く強度ある三つ巴の推進する渦旋となり際涯を駆け登る ここでの倫理はすべて陽光のもとにあり 過剰に増大するエントロピーに秩序は破られ 系が閉塞し力弱まって再び柔らかさより始まる
【今日の一曲】むせるような炎天下 ゆらゆら揺らめく風景 黒のキャップを深くして線路沿いの細道をとぼとぼと徒歩 巨大な鯨が宙空をゆっくりと泳いでくのを幻視しながら呼吸をし 体温を抑えていた こんにちは幽霊さん 蔦に覆われたバラックが泣いてるよ この世の皮膜を渡ってく -Takashi Hattori「Humanity」(2011)


106日目 11:24 27℃ 曇り
朝方にパラパラ天気雨 暑さは多少抑えられるが湿度高し 節より次々芽生えては 自らの身体を陽光の障害と捉えれば所与の方位を逸脱して乗り越えてゆく型破りな生き様 さもなくば自ら枯らし切断するのみ まだ白緑色した蝉が地面より飛び去ってゆく
【今日の一曲】カレーを食っていると不意打ちのように店内にそれまでとまるで異質な声が響いてきて息を呑む しばらく手を動かすこともできず上の空で 歌声に捉えられるうち動悸は上がり からだの底より湧き上がる震えと共にどっと突っ伏してしまいたい生理を抑えていた - 宇多田ヒカル「初恋」(2018)


【お知らせ】18日(水)までの6日間、「朝顔観察記」と「今日の一曲」はお休みします。


【今日の一曲】数日ぶりに山をくだって たまたま入った場所で聞こえてきたのは 女性がカヴァーするワイルドサイドを歩け でした (7/18)

113日目 18:29 31℃ 晴れ
炎天下 高い湿度で立ち昇る植物と土の匂い 毛深く芯の太い蔓がいたるところ宙に身を投げ出し 垂れつつ触手を移動させ 風も利用しながら依代を掴んでは貪るように絡みつき駆け登る 根は一層深く放射状に張り巡らされ土は盛り上がってくる 蝉の抜け殻が二つ転がっている
【今日の一曲】猛暑の大都市に放り出されて電車に揺られ 心身追っつかずにその穴を埋めようと素朴なトンコリの反復を聞いていた 春に飛来する白鳥たちの曲 -白川八重子「トー・キト・ランラン」(1979)


114日目 7:51 30℃ 快晴
移ろいゆく光と影 これもまた日々廻りながら僅かずつ軌道をズラしてゆく 縦横無尽に領土を横断しもはや節を基点とせずともエナジーの支点はどこにでも偏在しえて 跳躍し旋回の姿勢をとる 虚の世界と戯れつつ地下との対称性を奔放に展開する 表面積の拡がりは陽光と水へ開かれる
【今日の一曲】電子音で暑さをやり過ごすうち いつしか迷い込んだドープなビートに挑発的なライム クラッシュのサウンドはからだの裡へ静かに喰い込んでゆき ふつふつと震わせ別の時空を開いてゆく -Dj Krush「Monolith (Feat. Ryohu Karma)」(2017)

115日目 17:00 33℃ 快晴
一斉に陽の当たる方角へからだを開く様は異様ですらある 初期段階の奇形もまた陽光が意識されての形状のように見える 滞空期間の長い蔓は太く毛深く虚空を自律的にうねりせり上がってゆき 葉は硬く鉤爪のように鋭く掘り深く又色も濃い 幼葉に赤みが透けて燃える
【今日の一曲】(韓国江陵の巫楽を選ぶつもりだったがYouTubeにて見つからず だが)この半島の打楽器の躍動には地下より突き上げてくる律動があり その延長に旋回の動きがある 混沌がひとつの巨大なうねりへと収斂してゆく -Kim Duk Soo

116日目 7:52 32℃ 快晴
暴走に近い勢いで推進していても 奔流を分岐させるリズムはどこまでも統制されている 芽生えが先にあり 摺り足のように押し出され 堰き止められるようにして止まり 又分裂する その場その場にエネルギー変換のターミナルを拡げ 分解と合成を同時に進行させ 循環し 増殖してゆく
【今日の一曲】やわらかく まろく すこやかで 即物的でありながら豊穣でイマジナリーな世界 -yanokami「おおきいあい」


117日目 12:57 37℃ 晴れ
ぬるい風がどんよりと地を撫でるように渡ってゆく 無法地帯のごとく葉の氾濫する上方に比べ地面付近は程々の風通しの良さを保ちながらも 余白を見つけては股より続々剛毛な蔓を伸ばしており 要らぬものは早々に枯らせてゆく リズムの変調か 調整の軌跡も下方に見られる
【今日の一曲】純喫茶にて耳にする いつも植物がするする伸びてくるのを眺めてるような心地になる 入院中 この曲しか聴けなかった と友だちが云っていた それもおそらくこの楽章のこと ゴダール映画でズタズタに切断されて断片的に聞こえてくるのもよかった - The Budapest String Quartet「Beethoven - String quartet n°15」(1952)

118日目 11:47 33℃ 快晴
蔓の六七段目で ふかふかなまま茶色く枯れた幼葉も その節ではすぐさま別の芽が息吹きを上げはじめている 天に近づくほど葉は強固で 炎天のためか縁を巻く 同じ苗からも太く逞しい蔓と細く色白の蔓が幾重にも分かたれて 断念されしもの 日陰でも潜勢力あるものもある
【今日の一曲】ここ数日 チャリを走らせながら中村一義を口ずさんでいた 今聞いても彼の曲たちは発明だな 不思議なブラックミュージック感はファルセットのせいでもあるが すべて<生>の肯定へと向かうが故でもある気がする -中村一義「そこへゆけ」


119日目 20:50 28℃ 晴れ
夏の夜の虫の声 遠くで水の音 室外機のカラカラいう音 幾分か涼やかな風が吹く 地に降り立てば 先端をクイッと上向かせ 這うて他者を探し進む 風に頼ることもできず孤軍奮闘す 繊毛は下向きに夥しく立つ
【今日の一曲】懐かしい未来のわらべ歌 朝 恋人の部屋で流れていた -高木正勝「うるて」

120日目 9:36 28℃ 曇り
太く渦巻き絡み合い 重量を増したその身を支えられる橋も果て 一挙に雪崩れ落ち 流れは分散しながらも再び別の柱に同様に収斂し旋回の姿勢をとる 顔を覗かせる 蕾の芽は未だことごとく実るより前に茶色く果てながらも 至るところ予兆は繰り返し宿り散らしている
【今日の一曲】アラブの歌姫ファイルーズによる闘争するアラブ・ファンク 脂の乗りきったパリ公演 -Fairuz「Oudak Ranan (live at Paris- Bercy)」(1988)

121日目 7:45 25℃ 快晴
朝から涼しい 荒野へ降り立てば 自力で垂直に上ることはできず 他力との邂逅を渇望するでもなく刻一刻に没入し 犀の角のようにただ独り進め 大きな葉でエナジーをつくられぬ故 先方いささか痩せ細る 水平の拡がりを支えるものとしての垂直性 痩せた光のように立つ影姿
【今日の一曲】なんの目的もなく ふと思い立ち 遠くに見える丘の上の巨大な観覧車を目指し走った 辿り着く頃にはちょうど夕暮れに染まってていて 薄暗くなる車内では寺尾さんの声が響いていた あなたは血の滲んだ目頭をゴシゴシ擦る これこれ、それじゃいつまでも治らないよ -寺尾紗穂「魔法みたいに」

122日目 12:39 24℃ 曇り時々雨
台風直前で唐突に降っては止んでを繰り返す 蝉や鳥たちの声 風の音 これも軌道修正と云うのか 絡み合い駆け上っていた蔓の一方は 瘤のような支点をつくり急激な下降を描いて宙へ身を投げ旅をする 天命を反転させる 熟した紅色と葉緑体を半々に纏う蔓の姿あり
【今日の一曲】雨の中 チャリを漕ぐ楽しさよ 台風の日にはフィッシュマンズが浮かぶ 延々と反復しながら移ろってゆく -フィッシュマンズ「Long Season」

123日目 8:04 27℃ 晴れ
蝉けたたまし 雨去って陽射し戻り 蒸してくる 葉面や縁の水滴も早々と蒸発され消えてゆく 束なり強暴にエッジを上昇するものたちは昨晩の時折の強風に捲られたまま葉の裏を露呈されている 土は耕され周囲に飛散して 根は一層踏ん張り力漲らせる
【今日の一曲】走馬灯のように過ぎてゆく時間 おばあちゃんはそっと目頭を押さえていた じいちゃんはそれを分かっていながらそっとしていた -「Tchaikovsky: Serenade for Strings, IV. Finale」


124日目 13:05 32℃ 曇り/晴れ
蟻の行列の上で 瀕死の蝉が息を潜めて葉影に隠れている 皺寄せたり折り畳むことで徹底して角を削ぎ円を描く葉の連なり 近辺の異種の丸葉を模倣したか 身を放ることを 転ぶ とか あえて外へ踏みはずしてゆく と捉えることもできる 邂逅と旋回なくば萎みゆく決死の投身
【今日の一曲】喫茶店で耳にするスライのベースライン 何故ここまでキレッキレなのか 異様に緊迫したグルーヴに あえて一拍抜かれたブレイク 次々移り変わるヴォーカル 黒人も白人も女も男も混合して沸騰する 分裂しながらも強引に統合されゆく力 こういうものを革命という -Sly & The Family Stone「Higher And Higher (live at Woodstock)」(1969)

125日目 10:17 31℃ 晴れ
バッタの群衆が到来し 地面付近より一挙に喰い荒らしにかかる 数日前の蝉の抜け殻は先端を陽に焼かれ 死骸も又カラカラの抜け殻 根元より一寸上った処の蔓はポキッと折れながらも他と全く別の領土を目指しはじめ 先端は更に折れ踏まれ土に塗れながら進もうとする
【今日の一曲】こういう女性的なスケールの狂暴な音楽がもっと各地から生まれてくるといいな と思う 根ざしているものが根本的に違う ウクライナから差してきた光 -DakhaBrakha「Yanky」
しかし今日流れてきたボブ・ディランもまたたまげたものだった この柔らかさも わたしにはある意味 女性的なものすら感じさせるところがあったのだった 不思議なことに -Bob Dylan「Blowin' in the Wind (live at Fuji Rock Festival))(2018)


126日目 9:57 33℃ 快晴
宙吊りとなれば自らを島とする他ない 破綻の際にあって柔らかな軸のみが柔軟な支えとなる 秩序と無秩序が入れ子になって突き進む どちらに転んでもエントロピーの増大には勝てない 絶えず危機と共にある ここに差別はなかった 願わくば存在のすべてを可能性に開いてあること