山田有浩 / Arihiro Yamada

Information of Arihiro Yamada (dance, butoh / ダンス, 舞踏)

朝顔観察記テクスト(8月)

127日目 23:42 29℃ 晴れ
影の世界で 旋回というだけでなく 輪を描いて見えてくる 幾重にも折り重なって 蔓の逸脱が一層激しくなっている

【今日の一曲】

128日目 19:24 29℃ 晴れ
それまでとは別の方位へ意志的に伸びてゆくものたち それも集団で なだれ落ちる流れに上昇するものらが絡みつき駆け上ってゆく 過剰に膨張した葉の連なり 肥えたバッタが闊歩する一帯 這うように進みて踏み折られた先端をはっきりと枯らせ切断する蔓あり

【今日の一曲】昨日辺りから 宮古八重山のじっちゃんばっちゃんらの声がもっとも自然に馴染んでくるところがあった 歌の始原

129日目 11:48 31℃ 晴れ
土の乾きが早い 芽も葉も蔓も 潔く節でエネルギーを堰き止めては落としてゆき 別の可能性へ無尽蔵に手を打ってゆく 唐突に赤紫が強く滲み出すのもまた節目より

【今日の一曲】暑さの夏は 涙を流し… 西表島の88のばあちゃんの八重山民謡 最近 神歌系のものは強すぎて聴けない 庶民の歌がちょうど馴染む

130日目 24:10 29℃ 晴れ
朝顔特有の匂いが立ち込めている 嗅ぎ分けられるようになってきた 幾重もの葉の折り重なりで全体としての壁面をつくっている かなりの高度までバッタが繁殖して孔を開けられている 土はカラッからで吹けば舞うよう

【今日の一曲】

131日目 15:32 34℃ 晴れ
一月近く蕾が生まれかけては枯れ落ちていたが 瑞々しく白んで膨らんでくる 包まれた蕾の列が現れる 昆虫に喰われた孔から突き抜けて上昇してゆく蔓

【今日の一曲】ここ何年もサハラ砂漠以南のブルース〜ロックが熱いけれど 彼女たちの 抑制された高揚を誘う音はとりわけ異質でトランシーに感じられる 完全に異世界に触れている眼である

132日目 12:39 23℃ 曇り時々雨
涼しく地面も湿り気を帯び 鳥たちが低空で賑わう 時折近くにボトリと音を立て柿が落ちる 勢い込んで宙へ舵を出したが 絡み代がなく安定的なエナジーの輪がつくれず 先端は急速に衰えてゆく それでも基底に勢いは潜在する故 別所に図太く蔓をつくり進む

【今日の一曲】

133日目 10:23 23℃ 雨
台風接近により雨風激しくなってくる 蝉けたゝまし 光量が変わり愁うような薄明の色彩が映え ふるふる震えながら笑う 根元は吹き溜まりのように枯葉や死骸が積もり 裏返せば虫たちが隠れている

【今日の一曲】

134日目 12:26 30℃ 曇り
南西から運ばれてきた生温い別の匂いがまだ大気に残る 状況は一斉に変化 一晩でサッと黄色く染まる葉 蔓葉の方位は散々乱れ 地固まる 地面での営みは豊かに活気づき 木の実の変色腐敗は早く 力尽きた蝉は蟻たちに柔らかな土を被せられみるみる解体され団子虫の温床となる

【今日の一曲】

135日目 12:37 34℃ 快晴
幼いカマキリが祈るような仕草で天を仰ぐ 膨らむ蕾は多くないが 解かれはじめた裡/裏より 緑の補色にあたる眩い紅色がエロティックに零れ出しはじめている 岩戸開き 裡に巻かれた身体をゆっくりと緩め 開いてゆく 思いがけず根元にも膨らむ蕾ひとつ 黄色めいてくる


【今日の一曲】

(再び東北へ参りますため、観察記は一時お休みいたします。一輪目の花は咲いてしまいそうですね。また火曜に)

139日目 12:58 33℃ 快晴
昨日一輪咲いた様子あり 周囲は未だ蕾膨らむ気配なし 拡散続く蔓の方へとエナジーが向かう故か 貧しさよ 枯らしゆく 外部でなく内へ向かわねばならぬ 内へ深く降りてゆき 豊穣な貧しさの果てにまるで別のヴィジョンがスッと垂直に立ってくる それが<外>であり来たるべき故郷

【今日の一曲】

140日目 23:16 28℃ 晴れ
時折吹き抜ける風強し ほぼ統制とれぬまでに各所は獰猛にバラバラに分裂しながら突き進み 自らを喰い潰すようにして秩序も倫理も破綻しつつ増殖してゆく この混沌に知性も掻き回されて 飢えもまた増殖しているように見える

【今日の一曲】

141日目 9:12 30℃ 晴れ
引き続き風強し 水を与える他は極力手を加えておらず地面は解放区で 周囲の草々の氾濫によってもかえって野蛮な強度が宿ったか 宙も地も静かに常軌を逸脱しており生と死と大きくもつれ乱舞する 生と死の舞踏 そして狂気

【今日の一曲】

142日目 7:39 25℃ 晴れ
秋のように涼しく 突風吹きすさぶ
登る滝の向こうで隠れるようにして まだクシャッとした皺を浮かべ開いてくる一輪 揺れている 重なり合う葉壁よりスッと刀を突き立てるように飛び出してくる蔓 多くの断念を経てもなお向かってゆく 反知性主義

【今日の一曲】

143日目 20:26 23℃ 晴れ
一度落ちた本葉があり その節の瘤を破り新たな蔓は生まれ出で 異常なテンポで幼き葉を連ねゆく まったく別の律の突き動かされ まったく別の姿-形 再生/蘇りでも分身でもなく まるで別の地平の開かれ 尽きた個所は積極的に自己破壊させ 節を境に別の組織を形成してゆく

【今日の一曲】

144日目 11:17 26℃ 晴れ
花一輪 開きかけの蕾二輪 蔓は二階の柵の中腹まで到達 下部にも小さな枯れが随所に 旋回がうまく組織化されていないものが多い 他者に絡みつかねば旋渦の流れの循環に限界がでる 分節化することで生き延びる 環境との触覚的交渉から気散じ的に可能なる態を次々制作してゆく

【今日の一曲】

145日目 13:21 28℃ 曇り
あらゆる節に一斉に現れた唐突な律動の転換は 開花と期を同じくして展開する とはいえ ひとつ ふたつの蕾が ぴょいと飛び出すものも 複数の芽が分岐点より吹き出すものもある いずれにせよエナジーの転換の質的変化 平面から膨らみへ 組織環境の整えから 実りへ 繋いでゆく

【今日の一曲】

146日目17:21 32℃ 晴れ
ぬるりとした蒸し暑い空気 風はゆるやかに流れてゆく 茎の底辺部はいつしか不動の強固さで図太くズシリと根を下ろし 地表は境で亀裂が落雷に打たれたように走る 翳りある地面近くにも蕾んだ膨らみが現れている
【今日の一曲】


147日目 20:54 28℃ 晴れ
灼熱の日中が過ぎて夜風は涼やか 虫の音に夏の終わりの夜の匂い 花はシュッとつぼんで萎れてゆくのを待つものと 翌朝の陽光を待ちきれぬように内に巻いた身体を緩めはじめるものと 葉の壁に新たに夥しい孔がある

【今日の一曲】

148日目 8:48 31℃ 晴れ
ゆっくりと皺を伸ばしてゆく 初めて眼を開いて見る 鮮やかな花弁にも垂直にスッと切り込みが走っている 誘う 種としての意志は形態化され いまや意志としての体をなさず 意志するより先に なる 意志によってシステムを微調整するが そのことで乱雑さが増大もする自己矛盾的生存

【今日の一曲】

150日目 12:41 35℃ 快晴
多くの花が開き 色彩は赤紫、紫、薄紫のおおよそ三色 シュンと縮こまり萎れたものに色は凝縮し 皺や襞が多く匂いも強まりエロスが放たれる 葉は風通しよく隙間をつくりのびのび代謝している

【今日の一曲】
(あと五日で引越しのため朝顔とお別れとなり、それに伴いこちらの観察記も終わりとなります。ご愛読ありがとうございました)

151日目 10:03 32℃ 快晴

【今日の一曲】


152日目 18:02 29℃ 晴れ

【今日の一曲】

153日目 11:01 28℃ 晴れ


【今日の一曲】

154日目 23:54 26℃ 曇り

【今日の一曲】