山田有浩 / Arihiro Yamada

Information of Arihiro Yamada (dance, butoh / ダンス, 舞踏)

朝顔観察記テクスト(6月)


62日目 07:45 21.1℃ 快晴
まぶしい陽光がきらきら降り注ぐ 空気はやわらかい 雨上がり周囲の地形 環境も波立つように変化する
己自身を島として されど漂流する身体の不可能性により外部を自らに折り畳み かつ絶えずその軌跡を場に刻み込み建築する
【今日の一曲】ある種の苛立ちまたはエントロピーの増大した状態を与えてくれる場はありがたく絶えず初心に引き戻してくれる 秩序は撹乱され同時に再構築する力は集注する 違和感こそ生きること 際に生きかつ際を切り開くこと -Eddie Palmieri「Somebody's Son」(1972)


63日目 14:21 27.2℃ 快晴
東の方角にこんもり盛られた山が出現する 地面のあちこちに微小な孔穴 蚯蚓のものと思しき穴も 少し乾燥し黄化した一葉あり 薄緑の蚊の子が葉に泊まり影を落としている 液体肥料を周囲に撒いた
【今日の一曲】西日を受けて目抜き通りをチャリ 洋菓子買いに駆け抜ける 売りは品切れで詰め合わせをもらう アイロンを温める 蚊にやられる 痒し -サディスティック・ミカ・バンド「塀までひとっとび」(1974)

64日目 19:29 24.4℃ 快晴
本葉はここでは主に陽の入る西の方角にばかり面を開く 翳ること多い東側の葉は意図的なものか既に幾つか落としており少ない とは云えアンテナは絶えず全域に行き渡っており蔓の先端も軽い傾ぎ方で螺旋を描くように推進してゆく
【今日の一曲】エリントンは幻想を華麗な伽藍のごとく建築するがモンクは崩壊と再構築が絶えず様々な場で立体的に起こるようなシステムを楽曲に組み込んでゆく (その流れはドルフィーへ繋がる) 朝耳にしたブラントン=ウェブスター・バンドの残響は陽が傾く頃モンクへと変わる -Thelonious Monk「Brilliant Corners」(1956)

65日目 13:25 29.6℃ 快晴
幼く開きかけた葉は柔かい葦の箱舟で 大きな帆の如く彎曲を描く成長した葉の前線に立ち風を受ける飛蝗の子にそれは大陸の果ての海に突き出す丘である 旅をせよ お前自身の身体が変容する波止場で旅人でもある お前はこの世の異邦人 環境をまとい先取りし辿り着いては流れゆく
【今日の一曲】ダニーのソウルは超ホットなのにカラッと涼しくスムースでよい 8の裏が4の裏と重ならないということの不思議さ 裏の裏は表ではなく どこまでも裏の裏でしかないのだということ 裏と表の複合は表の倍速とは異なるうねりを生み出す ダニーの手拍子はいつも複雑でトリッキーに聞こえて実はシンプルなので唸ってしまう 日影をさがして走るも結局日焼けしている -Donny Hathaway「Sugar Lee」(1970)


66日目 9:45 23℃ 晴れ
勢い著しい三者は摘芯された 切断された先端より白濁した液が珠となりぎゅうと滲み出る 自らの一部を自己切断/崩壊させるシステムは幾つかの生存の為の方法として組み込まれているが 人の手が加わることで促進され生まれる別の時間-身体(空間)と秩序がある 来るべき倫理のために
【今日の一曲】寝たきりでコミュニケーションもむずかしく認知機能も重度に低下して随分経つが ジルバを流せば手足はゆっくりリズムをとり 藤圭子を流せば涙が浮かぶ 一週間のサイクルの中で私の訪れる時を知っている この半年で発熱のスパンは短くなったが大概半日で下がる
しかしこの交流を「コミュニケーション」と呼ばずして何と呼ぼう 朝顔もまた私の存在をたしかに認識し交流し影響を及ぼし合っている 「ノンバーバルなコミュニケーション」の定義すら狭すぎる 絶えず環境とも互いをマッサージし/されるようにして交流している
それはそうと これまで幾人かの最期に立ち会ってきたけど こう云っちゃ何だが 私の消えるあと数ヶ月のあいだに ちゃんと見届けたい人が何人かいるな 生気がどんどん薄くなり気配そのものに近づいてゆくあなた ちょっとした状況変化がボディブローのように効き加速する 沈みも浮かびも気配の上に大概
いずれにせよ切断というのはでかい (今朝の朝顔にせよ) 切断は一瞬にして流れを反転させ増大するエントロピーを初期化し 新たな地平を切り開く が、同時にその反転すら一連の流れとして回収してゆく力もまた働いてゆく -藤圭子「マイウェイ(Live at 新宿コマ劇場)」(1976)

67日目 12:02 20℃ 雨
関東甲信越梅雨入りとのこと 摘芯して一晩で葉を一挙に大きくし領土を伸ばす 茎の切断面を小さくきゅっとすぼませて黒ずんで結ぶ 揺らいでいた雨音は次第に一定の持続する音へと移る しとしと葉に受けて根を張る地底は湖と化し雨は底より上がってくる
【今日の一曲】雨音を聞きながら薄っすらとフェルドマンが流れている部屋 見えない速度で刻々と動いているモノらの呼吸が聞こえてくる 微かな気配の移ろいが見える 本を開けば文字が立体的に泳ぎだす 窓から抜けてきた緑の匂いに取り囲まれる -高橋アキ plays Morton Feldman「Palais de Mari 」(1986)
ちなみに 元々はこちらになるはずだったが 諸々あって別のものを選んだ とは云えこちらも載せた方が面白いかと思い 載せておく-The Beatles「Revolution」(1968)

68日目 9:11 21℃ 晴れ
朝の光に乱舞して拡がる 朝顔朝顔であることを忘れ陶酔することで朝顔のようなものとして実在す 昆虫が来れば昆虫に 猫の気配がすれば猫に 雨が降れば雨に 土の質感の微細な変化に捉えられ 撹乱的に集注を折り重ね変容する イメージでなく感覚に建築される記憶を外に押し出す
ここで云う"外"は"表層"と云ってもいいけれど 必ずしも内部/外部の外部を意味するのではなく 例え体内であれ変容する 反転する 書き換えられる 発生の場所はあまねく"外"として生み出されうる "外"は革命の地平であり "外"は偏在する
"表層"と云ったのは ここが都度それまでありえなかったもの通しの一回性の交流の 混ざり合う場でもあるから
【今日の一曲】全身の血を抜き入れ替えよ 身の力がフッと抜け脛が砕けた 受けきらずごめんね 痛かったなんてもんじゃないよね ゼロ-臨界を旋回せよ 何度も聞こえる 跳ねるでなく踏むのは 息の底を興すのだ 既にここにすべてがあった 都合一度きりの生の屹立と消滅 畏ろしき反復 -Astor Piazzolla「La Camorra III」(1989)

69日目 7:50 24℃ 晴れ
巨大な雲の流れあり 土はまだ湿り気残るが日差し強く日中じりじり暑くなる予兆あり適度に水と肥料撒く 草丈も様々で低くとも横に成長拡げるものもあり いくらか葉を黄化させ落とした葉数少ないものも新芽の勢い/速度をじっくり見守りやがて来る摘芯の機を焦らずゆっくり待つ
いや この場合"待つ"というように何かを先回りして期待感を持つのではなく やっぱりただほんとに "みまもる"とか"まかせる"という方がいい 過去と未来は物理的に折り畳まれているのであって想念で重ねるのはナンセンスだ (この"物理的に"というのもちょっと違うね 物理的現象に ある傾向をもった力とか流れとして潜在してる といった方がいいか…)
【今日の一曲】この場合 切断ではなく裂け目だ という云い方を適応した方がよい 嘆きであれ憤りであれ 生温い半端なタマシイでは報われぬ 全身を震わせよ -Manuel Agujeta「Buleria (Live)」(2001)


70日目 17:04 28℃ 晴れ
度重なる過度な気象変動のストレスもものともせず 降り注ぐ陽光と雨水を余すことなく取り込み 体内での分裂・結合も目まぐるしく回転し 即刻外部に表出する 割れ目という割れ目からは新芽が現れ 低位置での混線状態も起こりはじめる 人の手で切断を入れ適度に秩序を呼び込む
【今日の一曲】領土化が暴力であることは云うを待たぬがそれを引き裂く脱領土化もまた暴力である 荒れ狂う常軌を逸脱した力-生命の流れを時に不動にすら見える細やかな世界の裏側にいかに繊細に聴き取りかつそれ自体を乗りこなし拡張/建築してゆけるか 憤りすら肯定的動力とし -Björk「All Neon Like (Live)」(2015)

71日目 16:45 19℃ 雨
朝方より雨足は強くなりしとしと打たれ静かに揺れる 動物たちは動きを抑えられ 無機物や微生物は滲みわたる大量の水を媒介に内包する成分と共に分解と合成を加速している 日に日にぐんぐん大きくなり生い茂る
【今日の一曲】流れ着いた者たちのサウダージ 雨音とショーロの流れる部屋で細胞をゆっくりと入れ替えていたような心地 -Jacob do Bandolim「Carolina」(1959)


72日目 8:56 19℃ 雨
朝から救急車の音と小鳥の声 軒下で眠る猫が逃げてゆく導線にあって毛状突起に白い毛が付いていることに気づく 大きく揺らぐも根は張ってブレずしなやかにしゃんと垂直に戻る 持続する風と雨足は随時変化し 水たちは落下して土を蹴り飛び散って葉の裏は泥んこの世界 天は低い
【今日の一曲】聞こえるはずの音は聞こえず 一歩踏み出すごと 踏み出さずとも世界は柔らかくうねるようにどんどん変形してゆく 定められた姿形を持たず其処此処が増殖し朽ち果て浸透し産声あげる 胎動する世界を歩き時に疾走する 私の死と生の円環が律動で胎動し打ち震わせる -Björk「Undo」(2001)

73日目 13:43 22℃ 曇り時々晴れ
雨上がり土が少し洗われて根が見える 深く腰を据えて張っており強風に揺られてもブレずしなやかに直立する 模様の細やかな底辺部の本葉は小さな隙孔が所々現れて千切れかけるものも とはいえ上層は艶やかで大きくたおやかな強度で揺れている 再び雨雲が近づく
【今日の一曲】日々 身体やモノや空間に触れることは 都度変容し 日々異なってゆく ここにある身体の状況/状態に気づかされることでもあり 錯綜する聲に耳を開き かつこの身を微調整することで あわいに広がる場を整体してゆく その術を日々実践的/実験的に深めること -表現「帆」(2015)


74日目 20:40 22℃ 曇り時々晴れ
湿り気ある空気 時折風がそよぎ涼やか 夏の虫の声 七本の個体群は所狭しと葉を重ね 地中では根を絡め合い独自のネットワークを広げ互いに情報を伝達し合う 近くに蟻の道がある 群落としてひとつの方位を向き容易に他を寄せつけぬ
【今日の一曲】午前中ラジオから軽快なトリローが聞こえてくる -三木鶏郎森繁久彌丹下キヨ子「僕は特急の機関士で」(1950)

75日目 11:44 22℃ 晴れ時々曇り
陽光の眩しい正午近くは 細胞膜を押し広げる内からの水圧は緩く 軟らかくしなる 幼い虫が宿っては去る 物質を根端よりふんだんに吸収し宿しては混ぜ合わせ別の身体へと結実させ地平を築いてゆく変容する交差点 まだまだ瑞々しい色の始原で輝くオン・ザ・コーナー
【今日の一曲】無機物/有機物といった境界など取っ払ったところで どのようにそれ自体として実在している=舞っているか といったところの僅かな質的差異として世界や身体を捉えてる感はあって 現代音楽を聴く歓び/醍醐味もまさにそのような差異を聴き取ってゆくところにある -Unsuk Chin (Kent Nagano, cond.)「Violin Concerto」

76日目 23:07 17℃ 小雨
いささか肌寒い 雨風が終始ゆるやかに波立つように撫でてくる 繁殖する水平の広がりを更に超え垂直の線が立ってくる
【今日の一曲】この町に来てまだ間もない頃 初めて終電を見送った真夜中に延々と歩きつづけた果てに辿り着いた 閑散としながらこうこうと照らされた大きな交差点 雨の中 6月の歌を聞きながら車を走らせていてふと (あ、あの交差点だ)と気づく -クラムボン「Re-Folklore」

自他問わず生死の臨界に関わるようなこと(肉体的 精神的なことも問わず)に関しては特に ほぼ予知(予想ではなく)してるものなんだな と 先ほどの瞬間を目の当たりにして改めて思う 数ヶ月前は想像もできなかったことを当時から既にヴィジョンとして見ていて 時差があってそれが"現実"の層と重なる
なんともいえない気持ちになると同時に 妙に腑に落ちているところもあって 例え緊急の行為に没入していても 都度カチッとハマってゆくそのようなとめどもない流れをどこか醒めて眺めている その瞬間の中でできる限りの誠意を尽くそうとするがそれはただの美徳でしかない (6/16)

77日目 9:42 15℃ 曇り時々小雨
はちぎらんばかりに根は領土を広げつづけ 地上にまで縦横無尽な剥き出しの勢いの一端を見せる 秩序もへったくれもなく上半身もまた炎のごとく無尽蔵に上昇する姿 もあれば 一方で奥ゆかしい物腰もある 個々に性格的な傾向はあると云ってよい
【今日の一曲】(朝から川柳川柳の動画が流れてきたが 師匠が古賀や服部を熱唱していたのはどこだったか…) 戦前にあってこの鮮やかな転調 憂いの空気はサビで強引に一掃される 激動の時代に片足突っ込みながら昭和モダンの華がギリギリ絢爛であり歌が夢であることを許された頃 -藤山一郎「東京ラプソディ」


78日目 7:38 16℃ 曇り
相変わらず天からは淡い光 湿度が高く四月並みの気温つづく 余白を埋め尽くす勢いは健在 不安定に投げ出され曲線を描くことで掴まえる偶然性が時間を先取りする 新芽は外巻きに渦を解かれてゆく自ずからの原理を潜在させる 智慧は力 力は秩序を崩壊させるが そこに更なる知性を
【今日の一曲】慣れぬことで頭にエナジーが集中した日中 過剰な情報で一杯になった頭脳を一気に吹っ飛ばし 瞬間瞬間 虚空へと連れてってくれる(「三番叟」) 鼓の一音一音が からだの根幹を ずん ずん ずんと振るわせて 削がれ ぐん ぐん真空の芯が伸びてゆく 丹田に虚は満ちる -山本泰太郎 面箱:山本凛太郎 後見:山本東次郎、山本則俊 笛:松田弘之 小鼓:鵜澤洋太郎、田邊恭資、飯冨孔明 大鼓:亀井広忠「三番叟」(2011)

79日目 8:35 21℃ 曇り
ほんの僅かな支点をも礎にしてエナジーは宿り新芽は裡より噴き出して蔓は旋回するように上昇する 例年より低い位置でのエナジーの充実ぶりで 微かな隙をも見逃さない野蛮さ
【今日の一曲】移ろいゆくすべてのものに歌を 消えゆくすべてのものに歌を - 安藤裕子「アロハオエ」


80日目 10:11 24℃ 晴れ時々曇り
久々の温かく眩しい陽光に対し水分の蒸発を抑えるため全面的に葉を脱力させる 二本の蔓が宙空で絡み合う 絡み合うとその旋回自体が<力>と化し 個々は逆に脱力してその流れにまかせきる あいだにより巨大なうねりとして身体が立ち上がる
【今日の一曲】冒頭からその表情が物語っているが この時期の彼は歌っているとき 完全に別の次元を生きている 1:39からの姿など異界に触れている感すらあり畏しいほど -CHAGE&ASKA「風のライオン」

81日目 12:37 21℃ 雨
葉は瑞々しく張りがあり 水の通い路が浮かび上がる どくどくと脈打つ流れがあり 響き 光る やぶれから世界が透けて見える 個体と個体は引かれあい同調しようとする 律動を 姿形を 虫たちの影もちらほら見られる
【今日の一曲】「常に危険な存在=即興音楽家で在りつづけたい」というベイリーの言葉 生涯坦々と苛烈さを貫きながら晩年に垣間見えた宝石のような煌めき 最後まで奮闘しつづけながらももがき苦しむようなことからは遠く ごく静かに自然に実在し消える 生涯が自身の出す音 -Derek Bailey「Laura」

82日目 9:02 21℃ 曇り
突然変異のように それまでの葉群とはまるで異なる形態のものが 対称性を破り されどフラクタルでもあるようにして煌々と出現する姿が多々ある 異形と 奇形というものが現状に対する切断であり未踏の領域へと踏み出してゆく無限に開かれた名づけえぬ強度 余白としてあること
【今日の一曲】エナジーが煌々と光を放ちながら沸々と沸き立っている 様々な初めましてが顔を出し獰猛に交わり胎動をはじめる 新宿の夜に目眩がする -国府達也「薔薇」(2018)


初めておどり(のようなもの)が計らずも入ってきてしまった時、まさにこのような視界の世界に入ってしまっており、それを冷静に、これは誰の眼だろう、この身体は何であり何処にあるんだろう、というような、まったく別の地平に突き飛ばされた体験で、それが踊りをはじめるきっかけになったんだった。
一体何なんだ、これは、という。何だか分からないけれど、とんでもなく大事なことに触れていて、これにこれからも触れつづけねばならない、もっとその先に広がる地平に触れてゆかねばならないという想いを強くしたのだった。
これを「踊り」と呼ぶのかどうかも分からない。けれど、ある一部の踊り手を見てい、あぁ、この人は確かにこの世界に触れてるな、と感じられる方がいた。から、そこに入ってゆくことにした。
僕は別に憑依体質でもないし、この体験、この眼…視界や身体の世界を、憑依だのシャーマニズムだのトランスだの、そういうものと、(まぁ百歩譲って近しいところはあるかもしれないにせよ)、一緒くたにはしたくないところがある。安易に祈りだの鎮魂だの云うつもりもない。
ずっと無意識にやっていたのだけれど、自分がやたらこうした視界がぼやけたような、像が重なるような写真ばかり撮っているのは、あの状態の眼と重なってるんだなぁと、今更ながら気づくし、そこに一貫して自分の触れるべき地平があるのだと、それこそはっきりと身体で覚えているからなのだなぁと思う。(6/21)

83日目 14:42 26℃ 晴れ
時折そよぐ風涼し もっとも潜勢力控えめで重心の軽い子もついに水平線をスッと突き抜けていった また別の子は柵へ差し掛かり旋回のサイクルを短めに取りサーチする かねてよりバッタの幼虫が数匹住まい若干喰われているが放っておく
【今日の一曲】抑えられた予兆的な前半と それが破れ不穏さの満ちる中盤ののち 放たれるショーターの抒情的で透き通った光射すような短いフレーズの反復 コルトレーン亡き後ソプラノを手にしたショーターによる 荒地に響き渡るように齎された可憐な華 来るべき新たな兆し -Weather Report「Unknown Soldier」(1972)

84日目 12:44 23℃ 小雨
昨夕 支柱を三本立てる どうした力が働いたか それとは逆方向へ転倒している 折れてはいない バランスを崩し 地面へ打ちつけられながらも 葉と蔓は重力に抵抗しすぐさま上向きに勢力を開いている もっとも歩みの緩やかだった子はさっそうと支柱に三つの渦を絡ませる
【今日の一曲】ロック〜ファンク好きを度々唸らせてきたモー娘。のひとつの頂点 「THE 人間だ!」とドヤ顔で迫る 理屈を突き抜けるワケの分からぬ説得力こそファンクの真髄でもあろう 唐突に転調するサビも ロシア民謡も絶妙で絶品 -モーニング娘。「そうだ!We're ALIVE」(2012)
お気付きの方もいると思うが ほんとはこちらを押したかった 何も狙っていないのにこの昭和アイドル感 目眩がしそう はーちん 幸せになってください -モーニング娘。「」(2018)


85日目 7:51 20℃ 曇り
時折まだ雨粒が落ちる朝 身体はまず重力との関係において構築されてゆき ある表層的役割を強く帯び/構造化すると力はその役割自体を動力として働きだし そこを不条理に切断されるとへたるしかなくなる 可能性としての余白 今はまだ不条理自体をも力として取り込み進める
【今日の一曲】権利の美学 から 亡霊の影をかすかに残しながらも呪縛からは放たれて 不思議に高揚と諦観が同居しつつたんたんとエンドレスに続いてゆく ただたんたんと 連綿と続いてゆくことの他に救いはないのやもしれぬ そこに力は宿る そこに権力は宿り繰り返す -New Order「Your Silent Face」(1983)

86日目 8:38 25℃ 快晴
陽射しが強烈に降り注ぐが 湿度が残り空気は柔らかい 身体を根より大きく傾がせながら蔓を弓のように大きくしならせ先端で支柱をつかまえて全体重ぶらりと乗っかる 重力を味方に 脱力と強度の深まり スッという垂直性の振舞いにも細部に連綿と弧を重ねながら空間を開いてゆく
【今日の一曲】あらゆることが可能であると同時にあらゆることがあらかじめ決められており あらゆることが一度きりであると同時にあらゆることが繰り返しの中にあり またあらゆることが取り返しのつかぬ"あってしまったこと"であり同時に夢まぼろしでもある -Talking Heads「Once in a Lifetime」
デヴィッド・バーンの奇妙な動き 眩暈、痙攣、感覚麻痺、失神、蘇生 時間のもつれ、次元のやぶれ 時間の奴隷であると同時に司祭 四十年近くやっていることが変わらないどころか 世界観が舞台全体にまで拡張されてしまっている -David Byrne「Once in a Lifetime」(2018)

87日目 13:36 28℃ 晴れ
茎の北方に生まれた葉は 茂りに陽光を遮られ 領土を求めて葉間を縫うように南方へ顔を出す 四日間で支柱を突破した蔓はそよぐ風に導かれ 曠然たる振れ幅で辺り一面を柔らかく探索する 依り代は空ではなく色(実)で 色と色のあわい(虚/空)に響きが生まれ力が生ずる
【今日の一曲】うたうだけ うたうだけ 浮かぶだけ 空の海に色が浮かび 色に空が広がってるだけ 沈黙の海にフッ フッと いのちの模様が浮かんでくだけ 脆く繊細な身体はあちら側にスーッと入ってゆくだけ 気候は激しく変動し 多くの人影がのぼってくだけ とてもきれいなあやとりをしてみせてよ -武満徹「うたうだけ」

88日目 20:30 27℃ 晴れ
ずっと気まぐれな強い風が吹き 周囲の音が舞い戯れて 振動で環境を捉える 柵で二者は交わり推進し 先端はどれも絶えず三四つの芽を宿し 一つで折々に節を築き 一つは行く先の方位を開拓する そこから茎をずんずん伸ばしながら同時に次の節となる芽を導いてゆく
【今日の一曲】分節化された互いの隙間を縫うように交錯する力がひとつの巨大なうねりを生み出してゆく 情のことごとくを蒸発させる 苛立ちも哀しさも歓びすらも 非連続/切断の連続/反復が渦を深い底へと垂直に拡張させて 一切が流れとしてのみ捉えられる -The Isley Brothers「Livin' in the Life」

89日目 16:34 28℃ 晴れ時々曇り
朝方短い雨上がる 度重なる雨と陽光の反復に土は引き締まり 止まぬ強い風が足元に切り離された葉や実や虫の死骸らを運んで ゆっくりと朽ちてゆく 風に乗り蜘蛛が飛び糸を結ぶ 絡まり合う蔓はすぐさま別々の道へと進路を定めた 若葉の鋭さは瑞々しいナイフのようだ
【今日の一曲】傷つきやすさを強度へと変えてゆく 他者の痛みを自らのものとして引き受け なおかつそこに生きる者として加害の構造をも身に負うて 怒り 憤り 奮闘せよ 電子音(楽)は母性原理とアナーキズムを束ね綾織ってゆく -ANOHNI「CRISIS」(2016)


90日目 7:53 26.4℃ 快晴
朝から強い陽光がさんさん降り注ぎ 日向と日陰の領界がくっきり綾を結び揺れている 水を注ぎ眩しく輝く いたるところで渦がゆるやかに他者を巻き込み 蔓の先端はそれぞれぴょーんと不安定に投げ出される 地下では根が一層複雑に絡まり合い情報網をつくっているのだろう
【今日の一曲】纏まった低い雲たちが次々とんでもない速度で流れゆく 窓を開けるとむせ返るような湿気と強い潮風 間近に聳える小高い山々の上部が霞む 海から立ち昇る水蒸気が流れている 海岸線に出ると荒れた漆黒の波 ひた走る 淡い西日が照らす淵の緑は黄金に輝く -Milton Nascimento「Clove and Cinnamon」(1976)

91日目 9:27 26℃ 快晴
脇に深い溝が生まれる夢 柔らかい土に猫が糞をして辺りに蝿が多い 蝶の卵が振り撒かれラメの道 バッタの子らが繁殖し一つの葉を集中的に喰らい穿孔だらけ 筋は残す エナジーの満ちた葉は水分もふんだんで旨かろう 焼けてきた葉の部分は黄から黄土に変色しカラカラの皺となり縮む
【今日の一曲】異質なもの通しに橋を渡すことはできぬ ただ分裂したまま互いがありのままあってかつ巨大なうねりとなってゆくこと 隣り合う私と鬼婆 反復するゲンブリの低音が情動に膨らみを持たせ揺さぶり カルカベの高音が底より激しく煽りたてる -Mâalem Mahmoud Guinea「LE GRAND」

92日目 8:03 26℃ 晴れ
一等南のものが蔓は支柱に絡ませたまま根より引っこ抜かれているうちのクロの仕業やも知れない (写真撮り忘れた…!) 根は千切れているが葉にはまだ弾力がありすぐさま土に埋めなおし水で固める
節を基にして急に進路を転じる姿が随所にある カーブの向こうに触れてゆく
【今日の一曲】約五年ぶりのパリ風のレストランで耳にしたのはスウィートなサム・クックで こちらは黒人オーディエンス相手の濃縮されたクラブにて激情を炸裂させ汗と涙を歓喜で蒸発させてゆく -Sam Cooke 「Bring It On Home To Me」(1963)