漠とした状態で眺めている。
樹を眺めているうちに、いつしか視線は樹を越えたどこか遠くへと馳せられて。
時間が止まっている。
時間が動いている。
五十年前からそこにある景観。
五十年のうちにやってきた景観。
五十年のうちに去っていった景観。
漠とした状態で眺めている。
立ち止まる時間。なすすべもなく。
無力感にさいなまれながら。
こうして人は一段深まる、。気付きを覚えて。
悠久の流れのなかで地形もどんどん移り変わりながら。
多大な犠牲を払いながら。
それでも人は生きてきた。
変わらぬものはない。
手を合わせる。
今日も暮れてゆく。
烏たちの声が遠い。
白い服の男たちが通りすぎる。風の音が鳴る。
電話口、Yさんの明るい口調に元気が出る。
生きるということ。
歩く。
歩くこと、食べること、浸かること、
調律となる。
お遍路参りについて。
ひどく静かだ。
曇天の下をひたすら歩く、
街角にて、数年振りの知人と遭遇す。
こんな日に逢うこと。
こういうとき、スーザンソンタグは…、と、考えている。
他者の哀しみや苦しさを身体中に溢れんばかり詰め込みながら闘いつづけた人のこと。
自室に籠って泣きどおしだという知人の話を聞く。
身体は世界を映す鏡である、ならば。
霊長類。の語源について野口整体的な観点から思う。
その日の夜、無意識裡に『風の谷のナウシカ』を取り出していた。
没入する。