山田有浩 / Arihiro Yamada

Information of Arihiro Yamada (dance, butoh / ダンス, 舞踏)

7月20日 曇り。






南で降りると 蝉が鳴いていた 早朝のしづけさのマツリの社 遠い昔 貿易で栄えた港のしなびた街角の影 これからは績む世紀だとすすむひとよ これからは網の世紀と歩みしひと わたしはまた此処に戻りました 人の汗 血 涙 手 半分の糸 糸と泉 幻影に直に触れることを通して 失われしロマンの復興をと ひとり求めさまよった摩天楼の迷宮の 肌が透き通った絹となる処 もう手の届かなくなってしまった記憶の人たちよ 映るすべての存在にあなたの影がゆれるのです 沈黙を畏れる人よ どこまでも言葉の付きまとうていたあなたの背後に 神前の鏡越しに気付いていた 南で降りると 蝉が鳴いていた よどんだ暗い運河を眺めながら しらす飯を掻き込んだ 音に振れ 色を食し 吐き 風を結ぶ人よ 光と風を編む人よ 水の葉音司りしもの 草木のように吊るし揺らし揺れるもの 風景の層を反転させる 生命の結び目をほどいてはむすんでをくり返し 光の茎だけで直立する 運河に沿って下を風が吹き抜けていった
足 足の裏 をぼろぼろにこぼしながら 芯だけになって生きる  夢の中 人を殺したあと歩く下北の巴里の細道に 沿ってどこまでも吊りさがり揺れる風鈴の音が 木漏れ日のうつろいの光陰とともに白いYシャツの上で発酵し蒸発し耳へと立ち昇る 隣には影のひとありて 帰路に現われしひどく天井の高い純白のオリエンタルな高級建築で開かるる持続可能な市はもはやアジールとしての機能をも失い じめじめと薄暗い崩れかけのバラック小屋へとぬけた 大きな風が戸の胸ぐらより揺さぶる 新聞の一面はどれも同じ名で溢れ 地面へと頭を擦り付け底なしの善意と信頼への失望の涙にどこまでも尽くせぬ返答を

生まれるためにとびおりる 名をもたぬ色に身を包む器となって ある時は紙を食し魂を転がす刻を過ごし 人知れず 生きなおすことからはじめつづける いつの痕跡だか思い出せなくなる処まで もはやその痕跡を愛でるでもなくただ共に在れる刻を どうか 名もなきひとたち わたしも消えゆく足跡です 手もなく 眼もなく 口もなく ならばあなたの唄の吹いて来し在処は 今此処を瞬間根こそぎ吹き飛ばしてしまう程の大きな風の 在る風倒木の小さなうろの裡より生まれし事を 声を 唄を 言葉を 世界に聴き取るための沈黙して在る声なきものは 同時に声を発するものでもあり 故に沈黙を集め 再び風を起こそうとして何処までも 足を 肌を 晒して歩いたのであった 「唄」という文字の宇宙の上で 「口」と「貝」の出会ったことが なんだかむしょうにうれしく 海上の路を見つめる 気流の痕跡と自然の痕跡と人の痕跡の交差する眼で 結び 増やしゆく 深めてゆく 育ててゆく 人類がこれまで行ってきたたくさんの飛躍と飛びおりと共に ひとつひとつを拾い集める為に歩く 地層を飛びおりる 生まれるたびにとびおりる 名をもたぬ色に身を包む器となって ある時は紙を食し魂を転がす刻を過ごし 人知れず 生きなおすことから いつの痕跡だか思い出せなくなる処まで もはやその痕跡を愛でるでもなくただ共に在れる刻を どうか 名もなきひとたち わたしも消えゆく足跡です 幻視者としてのあなたの つくる風をあつめて 色をつけて 共に飛ばさんとす